広告制作のトップランナーが向かう、その先へ
株式会社たきコーポレーションが育ててきた、組織のデザイン力

株式会社たきコーポレーション

1960年の創業以来、グラフィックデザインを起点に、Web、映像、ブランディング、UXへと領域を広げてきた株式会社たきコーポレーション。広告・デザイン業界のトップランナーとして多くのクライアントの課題に応え、Cannes Lions、ADC Awards、東京ADC賞、広告電通賞をはじめとする国内外の主要な広告・デザイン賞でも評価を重ねてきました。
同社の強みは、受賞実績や案件の量だけではありません。そこで培われた確かな品質感覚や仕事の進め方を、個人のスキルに閉じ込めることなく、組織全体へしっかりと受け継いできた点にあります。
グラフィックの力を土台に据え、「今、何をつくるべきなのか」を深く考え、最適なチームを組織する。時にはクライアントのオリエンテーションの手前から伴走する。そうした誠実な仕事の積み重ねが、現在のたきコーポレーションを形づくっています。
今回は、執行役員の天明さん、アートディレクター/デザイナーの鶴見さん、デザイナーの福西さんの3名に、同社の歩み、ものづくりの裏側にある独自の制作プロセス、そして変化の激しいAI時代におけるデザイン会社の未来について話を伺いました。

広告デザインから始まった、65年以上の歴史

──まずは、株式会社たきコーポレーションの歩みについて教えてください。

天明さん当社は1960年に「株式会社たき工房」として創業し、デザインカンプや紙媒体を中心とした広告デザインの制作からスタートしました。
その後、会社の分割や合併、再統合を経て、現在は「株式会社たきコーポレーション」となり、約400名が在籍する国内最大規模のデザインエージェンシーに成長しました。
この65年以上の歩みの中で、デザインに求められる領域は大きく広がっています。紙媒体だけでなく、Web、スマートフォンアプリ、デジタルサイネージ、映像など、表現を届ける媒体は多様化の一途をたどっています。
一方で、ブランドデザインやUXデザインのように、最終的なアウトプットへ至るまでのプロセスそのものも、デザインの対象として考えられるようになりました。当社も時代の変化に合わせて、扱う領域を広げてきました。

──社内はいくつかのカンパニーに分かれていますね。

天明さん完全に独立した別会社というより、それぞれに得意領域を持つ専門チームと考えていただくのが近いです。映像、ブランディング、Webなど、カンパニーごとに領域の濃淡はありますが、案件に応じて必要なメンバーが柔軟に協働します。

──創業時から変わらず受け継がれているものはありますか。

天明さんやはり、クライアントの期待に応えたいという姿勢ですね。
当社の創業者は「来た仕事は断らない。うちでできない仕事は、ほかでもできない」というほどの気概を持っていました。依頼されたものをただつくるのではなく、期待された以上のアウトプットで返したいと考えていた人なんです。
もちろん現在は、スケジュールや体制を含め現実的な判断をします。それでも簡単に「できない」で終わらせず、どうすれば実現できるのかを考える精神はしっかりと受け継がれています。
当社は制作会社ですから、「つくる」ことを非常に大切にしています。依頼されたものを、きれいに仕上げればそれでよいとは考えていません。「何をつくるべきなのか」「何を変えれば、クライアントの事業や組織が前に進むのか」。そこから一緒に考えることも重要な仕事だと思っています。

しちとう信用組合——島の内側だけを向かないブランドへ

──鶴見さんはアートディレクター・デザイナーとして活躍されていますが、印象に残っているプロジェクトを教えてください。

鶴見さんしちとう信用組合は、伊豆諸島9島と小笠原諸島2島の地域経済を支え、島民や地域の企業とともに歩んできた金融機関です。その創立70周年に合わせ、リブランディングを担当しました。ロゴ、Webサイトをはじめ、封筒や名刺などのVIツール、キャラクター、ブランドムービー至るまで、ブランドとの接点を幅広くつくり直しました。
ロゴだけ、Webサイトだけで終わらせるのではなく、日常的に職員の方々が使うツールから、島の外へ向けて発信する映像まで、一貫した世界観で設計できたことが印象に残っています。さまざまな接点を通じて「この組合らしさ」が自然に伝わる状態をつくりたいと考えました。

天明さんこの案件では、実際の制作に入る前に、職員参加型のワークショップを行いましたね。組織のなかで大切にしているものや現在の課題感、そしてこれからの方向性。職員の方々が持っている思考を表面化させていくプロセスは、表現に落とし込む上でも重要です。
最終的なアウトプットだけをつくるのではなく、情報を集め、市場環境や事業の方向性も踏まえながら、「何を表現するのか」「どのメディアで伝えるのか」まで設計できる。それも私たちの大きな力だと考えています。

鶴見さん制作前のリサーチプロセスは、表現の最適化という意味でもとても大切ですよね。新しいロゴには、リサーチの結果を踏まえて、信用組合と地域を結ぶ「架け橋」のイメージを込めました。展開していくと「波」にも見える造形です。
しちとう信用組合は、東京の島々で暮らす方々と深く結びついています。金融機関としての信頼感をしっかり保ちながら、島の自然や土地の個性を残すことを大切にしました。
実際に島を訪れたとき、島民同士の結びつきが非常に強い一方で、外から見ると少し距離を感じる部分もありました。ただ、その強い結びつき自体が島で暮らす人々にとって大切な価値です。外に開くために既存の良さを消してしまうのではなく、もともとある魅力をどう伝え直すかが重要でした。
だからこそ、映像やグラフィックでは「笑顔」や「明るさ」を意識し、島外から訪れる人にも親しみを持ってもらえるブランドに見えるようにしました。何より職員の方々が自分たちのブランドとして受け止めてくださったことが、いちばんうれしかったですね。

ベネッセパレット——理念が固まる前から、つくり始める

──もうひとつ、最近の事例を挙げていただけますか。

福西さん介護施設向けの食事サービスを展開する「ベネッセパレット」のリブランディングです。ロゴタイプ、キービジュアル、さらにはその展開として展示空間などを制作しました。外部のクリエイティブディレクターと連携しながら、私たちはアートディレクションと実制作を担当しました。
当初の課題は、ベネッセスタイルケアグループに介護食を提供する会社があることが十分に認知されていないこと、そして社名から食事を扱う会社だと伝わりにくいことでした。競合がひしめく中で、まずは存在を知ってもらい、購買へとつなげる必要がありました。
プロジェクトでは、経営層をはじめとする幅広い関係者の方々へ、一人ずつ丁寧にインタビューを行いました。現在の課題を語る人もいれば、5年後やさらに先の未来を語る人もいます。そうした多様な意見を集め、現在の課題と目指す方向を整理し直すところから進めていきました。

──競合との差別化はどのように考えたのでしょう。

福西さん新しい立場らしい独自の切り口で見せる案と、業界の主要プレイヤーとして正面から競合と並ぶ案の両方を提案しました。話し合いを重ねた結果、ベネッセスタイルケアグループという背景や強みも踏まえ、後者の方向へ進むことになりました。
一般的に介護食の業界では、赤やオレンジが多く使われているように思います。食を直感的に伝えるためにはわかりやすいモチーフや色が必要ですが、それだけでは競合他社と似通ってしまいます。そこで、赤系を主色としながらも、青と黄色を副色に設定しました。
もう一つの特徴は、ミッション・ビジョン・バリューの検討とロゴ制作を並行して進めた点です。本来なら、理念をしっかりと固めてからロゴをつくる方が進めやすいのですが、今回は「会社として何を最も重視するのか」が、まだ議論の途中段階にありました。
だからこそ、さまざまな方向性の表現をつくり、実際の絵を見ながら議論を重ねました。表現をつくることによって、理念の輪郭が見えてくることもあるからです。

多くのデザインバリエーションを並べ、判断の基準をつくる

──アウトプットの質を高めるために、特徴的な取り組みはありますか。

福西さん入社して驚いたのは、最初に出すアイデアの数です。十分な時間がなくても、まず考えられる選択肢を一気に出します。ロゴであれば、一度に50〜60案をつくることも珍しくはありません。
最初から一案に絞るのではなく、異なる方向の案を実際につくり、並べ、そこから何を残すかを考えます。具体的な絵を見ることで、初めて「これは違う」「こちらが自分たちらしい」と判断できる。数を出すことは単なる物量ではなく、思考と対話を生み出すための方法でもあるんです。

天明さんひとつ付け加えるなら、この制作スタイルは、おおよそ当社のどのチームでも行なっていることではあるのですが、このやり方が全てのクライアントに合うわけではありません。短いサイクルで案を出し戻す方法が合う会社もあれば、段階を踏んで合意形成する方法が合う会社もあります。
相手が何を見て、どのように考え、どこで意思決定するのかを理解し、その進め方を設計する。デザイナーも「何をどう動かせば、クライアントが最適な判断を下せるのか」というプロデュースの視点を意識して仕事をしていますね。

求めるのは、デザイン細部のロジックまで説明できる人

──採用では、どのようなデザイナーに来てほしいと考えていますか。

天明さんデザイナーであれば、制作物のクオリティが高いことは大前提として必要です。そのうえで自分でしっかりと考え、その考えを自分の言葉で人に説明できる人を求めています。
例えば、クライアントから「ここを赤にしてください」と言われたとします。そのとき、「赤と言われたので赤にしました」では足りません。
なぜ赤にするのか。赤に変えることで、全体のバランスや伝わり方はどう変わるのか。ここを赤にするなら、ほかの部分はどう調整すべきなのか。依頼の背景まで考え、自分のなかで答えを出し、それを相手に説明できることが必要です。

福西さん私は前職で、Webを中心にディレクションとデザインの両方を担当していました。クライアントと直接話しながらLPを制作し、「その施策がブランド全体のなかでどのような役割を担うのか」「競合とどう違って見えるべきか」を常に考えながら提案していました。
継続案件では、「前回はこうしたが、今回は何を変えるべきか」「今後のブランドを考えると、今回はどこまで踏み込むべきか」という話も毎回していました。そうしたコミュニケーションを重ねることで、そこで得た理解やナレッジを、次の提案やよりよいデザインへ反映できるようになった気がします。

天明さん福西さんのように、過去の経験を次へどう活かすかを考えながら仕事ができることは、すごく大事ですよね。個人的な感覚ですが、デザインの仕事が好きで、自分の時間にもつい観察したり、つくったりしてしまう人は、数年で大きく伸びるケースが多い気がします。
これは長時間働け、という話ではありません。ただ、街にあるデザインを見て「なぜこのデザインなのか」「自分ならどうするか」と考える人と、そうでない人では、2年、3年で差がつきます。そういった点で、つくることや考えることが好きな人たちが集まる会社でありたいとは思いますね。

THINK DESIGN——アウトプットへ至る思考も、デザインする

──AIやテクノロジーが進化するなかで、デザイン会社はどう変わっていくのでしょう。

天明さん「きれいな絵をつくる」だけなら、以前より多くの人ができるようになります。AIを使えば、専門的にデザインを学んでいない人でも、一定の品質の表現をつくれるようになるでしょう。
それでも、デザインが不要になるわけではありません。どこに課題があり、どうなるために何をつくるべきなのか。そこを考える役割は、むしろ重要になります。
これまで私たちは、課題とオリエンテーションを元に、それを形にする仕事を長く続けてきました。けれど今後は、その分野の多くはAIに代替されていくでしょう。では、これからもデザインが価値を持つとすれば、そのデザインとは何なのか。そこから、私たちがスローガンとして掲げる「THINK DESIGN」という考え方が生まれました。
グラフィックの美しさやアウトプットの強さ活かしながら、クライアントと制作会社という境界を超え、その根っこにある課題、プロセス、関係性、仕組みまでをデザインしていく。それこそが、これから私たちが取り組むべき仕事だと考えています。

デザイナーが、より自由に仕事をつくる未来

──株式会社たきコーポレーションの強みと、これからの組織のあり方について教えてください。

天明さん当社は広告代理店でもなければ、コンサルティング会社でもありません。コンサルティング的なことは行いますが、最終的なアウトプットはデザインです。
そして、突出した個人スキルに頼るのではなく、組織として高い品質をつくってきたことも強みです。デザイナーを育てるための完璧なガイドラインがあるわけではありません。それでも、多くの案件を経験し、クライアントの担当者や、先輩や同僚から多種多様なレビューを受け、試行錯誤を繰り返す。その反復を続けるなかで、デザインに対する考え方や品質感覚が、人から人へ受け継がれてきました。
個人の経験が組織の品質へと変換されていく。この構造自体が、私たちの強みなのかもしれません。
将来的には、一人ひとりが顧客を持ち、課題解決からアウトプットまで担当できるデザイナーたちが集まった、社員同士が必要に応じて相互補完的に活動する組織になるかもしれません。
個人でも仕事はできる。しかし、一人では扱えない規模や難易度の仕事に挑むために、会社という組織を利用する。会社が社員を一方的に使うのではなく、デザイナーが自らの意思で、会社の仕組みや仲間を活かして仕事を広げていく。そんな関係です。
デザイナー自身が顧客と対等に会話し、メンバーを集め、外部の専門会社とも組みながら、最終的なアウトプットまで責任を持つ。そういう人たちが集まるからこそ、個人ではできない仕事が実現できる。それが、これからのデザイン会社のひとつの姿ではないかと思います。

──最終的なアウトプットの品質を保ちながら、オリエンテーションの手前から事業に入り込み、組織でデザインの力を高めていく。それが、株式会社たきコーポレーションの現在地なのですね。

天明さんそうですね。紙か、Webか、映像か。その選択自体が目的ではありません。
顧客に本当に必要なものを見極め、適切なチームを組み、期待を超える形にする。多くのデザイナーが考え、つくり、議論しながら、組織としての答えへと近づいていく。それが、株式会社たきコーポレーションが65年以上続けてきたデザインの方法なのだと思います。

広告制作のトップランナーが向かう、その先へ

65年以上にわたり、たきコーポレーションは広告デザインを起点に、表現の対象と手法を広げてきました。その土台にあるのは、経験豊富な個人の技術だけではありません。案件ごとの試行錯誤やレビューを通じて、組織全体で育ててきたデザインの知です。
これからは、表現をつくる力に加え、課題を見極め、関係者の考えを整理し、事業にとって必要な打ち手を設計する力がより重要になります。たきコーポレーションは、積み上げてきた制作力をその変化の土台にしながら、クライアントとともに次の答えを探していきます。
広告のトップランナーとして培ってきた知と組織力を、次の時代のデザインへどうつなげていくのか。その歩みは、すでに始まっています。